神様の贈り物
県立こども病院の病室を訪ねて本の読み聞かせをしていたあるとき、
個室に入院していた幼い女の子が、部屋を出たり入ったりしていました。
今日が退院ということで、看護師さんたちが「おめでとう」「よかったね」と
声をかけています。
とてもお話好きな子だったので、「最後に何か読もうか?」と尋ねると、
「今、おかあさんが先生とお話ししてるの。帰ってきたらすぐ行くから」。
女の子は落ち着かない様子で答えました。
ほかの病室をまわり終えて、また部屋の前を通ると、
その子がまだ手持ち無沙汰そうにしています。
「あら、おかあさんまだ?じゃあ、ちょっとだけ絵本を読んでようか。
おかあさんが来たら途中でやめてもいいからね」
「うん、そうする」女の子はその日初めて、ぱっと明るい顔になりました。
わたしが選んだのは、『かみさまからのおくりもの』という絵本です。
「病院であかちゃんが生まれました。神様は、どのあかちゃんにも贈り物をくれます。ほっぺの赤いあかちゃんには『よくわらう』を、大きいあかちゃんには『ちからもち』、泣いてるあかちゃんには『うたがすき』を・・・」
ここまで読んだとき、その子が「家に帰るとね、あかちゃんがいるよ。
いつも大きな声で泣いてる・・」としゃべりはじめました。
「あら、おねえちゃんになったのね」。「妹は泣いてばかりいるよ」
そのとき、わたしはピンときました。
今まで両親の愛情をひとりじめしてきたその子にとって、退院して家に帰れるのは
うれしいけれど、もう一人の新しい家族といっしょに暮らすのは、
不安がいっぱいなんだろうなと。
妹のことを話す様子がそれを物語っていました。
「妹さんは、よく泣くから歌の好きな子になるね。
あなたは神様からどんな贈り物をもらったの?」
「わたしは『よく食べる』かな」と女の子。
そこで私も「わたしはすやすや寝るあかちゃんだったから
『心の優しい』をもらった・・・かな?」と言うと、
「えー、本当?」と2人で大笑い。
そこへちょうど、おかあさんが迎えに来て、女の子は帰っていきました。
「がんばれ!おねえちゃん」とわたしは心の中でつぶやきました。
『かみさまからのおくりもの』は、小学校の先生をしている友人から、
1年生を担任すると参観日に必ず読むと聞いた絵本でした。
子どもが学校にあがると、親はつい、ほかの子と比べて、
悪いことにばかり目が向きがちになります。
そこで「大丈夫。一人一人がすてきな贈り物をもらって生まれてきたのよ」
というメッセージを伝えたくて、この絵本を読むのだそうです。
また最近、特別支援学校で一人の子にこの絵本の読み聞かせをした別の友人は、こんな話をしてくれました。
とてもいい表情で聞いてくれたその子に、担任の先生がすかさず
「なんてすてきな笑顔なの。○○ちゃんは『笑顔』という贈り物をもらったのね」
と話しかけたそうです。
「こういうとき、いつも身近にいる大人の言葉って大事よね。
この子にとって、すごい自信になるもの」と友人は言いました。
一冊の絵本が結んでくれる楽しい時間は、
子どもだけでなく、大人への贈り物でもあるのです。
「かみさまからのおくりもの」
ひぐちみちこ作 こぐま社 1,200円+税
作者は、長女が生まれたときから
手づくり絵本を作り始めた。
この絵本は、多くの母親から
共感の言葉が寄せられて出版 。
手作り感はそのまま、
温かみのある貼り絵の作品として生かされている。
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