虹のブランコ #8 

科学の本で読み聞かせ

 

 今回は科学の絵本で子どもたちの気持ちをつかんだお話をしたいと思います。

 

こども病院の個室で、小学校低学年の男の子とお父さんが下を向いてゲームに熱中しているところに出くわしました。

「あの、お話を読みに来たのですが…」とわたし。

父親が顔を上げ、「せっかくだから読んでもらおうか」。

 

 こんな時、ゲームのおもしろさに対抗できる本は―。

わたしはキャスターの付いた本棚「ブックトラック」から、この親子に合う本は何かと思いをめぐらしました。

「そうだ、先日小学校で読んだこの本にしよう」と取り出したのは「だれだかわかるかい?むしのかお」。虫を正面から撮った写真の絵本です。読者に虫の名前を当ててもらうクイズ形式になっています。

 表紙にある、まるで電話をかけているようなポーズの昆虫の名は「クビキリギス」。ほとんどの人が当たらないこのクイズで「へえ」と驚いたところで問題を続けます。

 次のページはバッタ。どのクラスにも虫博士がいて「トノサマバッタ」と正確に答える子がいます。

さて、先ほどの親子ですが、ゲームの手を止め、だんだん真剣に絵本を見つめ始めました。

 最後は難問です。「小さな顔に小さな目だけど、笑わないでね。これには、訳があるんだから」との言葉が写真に添えてあります。ここでほとんどの人が、なぜか「カマキリ」と答えるのですが、ゲーム機に目をやりながら、ちらちらこちらを見ていた父親が突然「『エダナナフシ』じゃないですか」と答えたのです。

わたしは思わず大きな声で「大正解。すごいですね。ほとんど当たらないんですよ」と言いました。その時のお父さんのうれしそうな顔!

 その後、「実は小学生の時に虫が大好きで、机の中にいっぱい入れて、先生に悲鳴を上げられたんですよ。夕方になっても虫捕りに夢中で帰らず、親にひどく怒られたなあ」と話してくれました。

 初めて聞いた父親の少年時代の話に、今度は息子さんが大興奮。2人で読んでもらおうと、わたしは病室に絵本を置いていきました。

帰りにもう一度そっとのぞくと、2人は頭をつきあわせて、その絵本を見ながら、楽しそうにおしゃべりしていました。

 やったあ!読み聞かせというと物語の絵本に偏りがちですが、科学絵本にはこんなふうに、自然の好きな子を引きつける効果があります。

 

 科学絵本をもう一冊。「おてんきかんさつえほん あしたのてんきははれ?くもり?あめ?」(福音館書店)は気象研究家の根本順吉さんが監修し、野坂勇作さんが劇仕立てに仕立てました。楽しみながら生きる知恵が身に付く本です。

 たくさんの子どもたちに読むときは一工夫し、「はれ」「くもり」「あめ」のマークの入ったカードを3枚1組にして、代表の何人かに渡し、クイズに答えてもらいます。

 

 では、読者の皆さんも考えてみてください。

次のような時、あすの天気はどうでしょう。

「あさつゆを見つけたら?」「山にかさぐもがかかっていたら?」「とおくの音が近くに聞こえると?」

 五感をフル活用し、お天気観察をしてみましょう。スマホなどで調べるのでなく、親子でわいわいとあてっこをすれば、新しい楽しみ方が生まれるのではないでしょか。

©だれだかわかるかい?むしのかお
©だれだかわかるかい?むしのかお

「だれだかわかるかい?むしのかお」

今森光彦/文・写真 福音館書店 900円+税

 

 

 世界で活躍する昆虫写真家の、愉快で楽しい写真絵本。

なかなか見ることができない昆虫の正面の顔がアップで写っています。ナナフシが枝に変身した様子や、カマキリの顔のアップは圧巻!