虹のブランコ #11

クリスマスに本贈る

 子どもの本屋にとって、クリスマスに向かうこの時期は、プレゼントを選ぶお客様のすてきな笑顔に出会える至福の時です。

「クリスマスは輝かしい季節です。愛と、やさしさと、楽しい笑い声の満ちあふれる日、他の人を思いやる日、親切な思いつきが、ふつふつと湧く日です」。これは、クリスマスにまつわる童話や詩を集めた「クリスマス物語集」の一節ですが、この文章を具現化したような「サンタ・プロジェクト」が松本で進んでいます。今回はその実践を紹介したいと思います。

 「あなたもサンタクロースになりませんか」。こんな呼びかけで、松本市の市民活動サポートセンターを拠点に市民有志が集まり、クリスマスを病院で過ごす子どもに本を贈る試みが始まったのは2012年のことです。

 入念な準備を経て始まったこの活動。まずは信州大医学部付属病院の小児科と県立こども病院に入院する子どもたちに本のリクエストを聞き、カードに記入してもらいました。趣旨に賛同した人は、市内の協力書店に出向き、カードを見て本を購入。リクエストをした子へのメッセージを書きます。それを集め、それぞれの病院にクリスマスに合わせて届ける取り組みで、アメリカでの実践を参考に、牧師の大沢秀夫さんが新潟県新発田市で始めました。

 この取り組みを講演で聞いた松本のメンバーが、わたしたちもやりましょう-と名乗りを上げたのです。ちなみに、大沢さんは以前松本にも長く住み、ご自身のお子さんも長期入院の経験があります。

 両病院とも、以前から読み聞かせボランティアが入り、子どもたちが本を好きなことが分かっていたので、受け入れもスムーズでした。他の地域では「病気の子どもたちはあまり本は読まないから…」と難航することもあったとか。私たち「ちいさいおうち書店」も協力店に選んでいただいたのですが、なんとその年は、わずか3日ほどで必要な本が満たされる人気ぶり。しばらく来店されなかったお客様も、病気の子どもを応援したいと駆けつけてくれました。

 

 昨年は、支援の必要な小中学生の通う「松本あさひ学園」にもプレゼントの範囲が拡大され、子どもたちに本が贈られました。学園の先生方からは「子どもたちは自分だけの本のプレゼントに大喜び。『みんなのこと、応援してくれる人がいっぱいいるんだよ』と伝えました」とか、「めったに感情を表さない子が、一人になった時、うれしいと言ってわっと泣きだしたのにはびっくりしました」といった感謝の言葉をいただきました。

 発案した大沢さんは、この活動の広がりを聞き、「教会の鐘の紐をちょっと引いたら、ガランガランとすごい音がして、すごいものを引き当てたような心境です」とおっしゃいました。

 今年も、プロジェクトが動きはじめました。昨年、院長、看護師長、事務局長がサンタクロースやトナカイに扮して、プレゼントを配ったこども病院では、さらにワクワクする仕掛けを考案中とか。

 みなさんも、今年は誰かの心に残る本をプレゼントしてみませんか?


「クリスマス物語集」


中村妙子/編・訳 偕成社 1,400円+税

 

 世界各地で読み継がれたクリスマスの伝説・童話・詩を14編収録。チャールズ・ディケンズや「ニルスのふしぎな旅」で知られるセルマ・ラーゲルレーブといったおはなしの名手が紡ぎだす物語は、きらきらしていて、心がほっこりするものばかり。冬の夜の読み物に最適です。