重い障害のある子へ
前回に続き、私たちが特別支援学校の重度重複障害の子どもたちに行ったおはなしの会の様子をリポートします。
当日、車椅子に乗った子どもたちと先生がプレイルームに次々と集まってきます。こども病院や他の施設での読み聞かせの経験から、私たちは今回、子どもたちに一番人気のあるポップアップ絵本(飛び出す絵本)2冊を中心にプログラムを組み立てました。
1冊目は「しあわせならてをたたこう」。あの有名な曲の歌詞を基にした絵本です。実演する3人が1冊ずつ手に持ち、三方に分かれて歌いながら子どもたち一人一人の近くに行きます。仕掛けを動かしながら読むと、ページを開くたびに動物がいろいろな動作をするので、車椅子に寝たままの子も思わず手を伸ばして触りたがったり、ニッコリしたり。
担任の先生も「まあ、ねこちゃんが手をたたいているよ」とか、「おや、犬がしっぽを振っているよ。見てごらん」と子どもさんの手を取ったり、体をさすったりしながら、一緒になって楽しそうに聞いてくれます。ほんの3、4分で終わる絵本ですが、始める前と終わった後では、その場の空気が変わるような気がします。聞き手の心の扉がちょっと開くのです。
次の「ポップアップ・サファリ」は、動物園の中で最も人気のある、6匹の動物の顔が大迫力で現れます。「ゾウ」「ライオン」「キリン」と出てくるたびに、子どもも大人も大興奮。この絵本も3人がそれぞれ手に持ち、子どもたちの車椅子のすぐそばまで順番に歩いて読みました。
周りにいる大人もいっしょに絵本を楽しんでいたからでしょうか。最後の「おおきなおいも」という巻き込み式の紙芝居では、付き添いの先生たちがおいもを抜く場面で次々に飛び出してきて、「うんとこしょ、どっこいしょ」とおいもを抜く動作をしてくれました。これは全く打ち合わせになかったことですが、子どもたちも大喜び。先生たちもとても楽しそうでした。
今回のプログラムは、普段学校でやっている方法からはかなりアレンジしています。「障害のある子は絵本はあまり必要ないのでは」と大人は考えがちですが、実際に子どもたちの反応を見てもらうことで、「そんなことはない」と思っていただけたらと試行錯誤を重ねています。
今回も強く感じましたが、子どもたちと普段接している先生たちの細やかな配慮は、私たちにはとうていまねのできないすばらしいものです。目の焦点が合うように、抱き上げてくれたり、補聴器を調節してくれたり、しっかりと子どもの体を支えてくれたり…。そのちょっとした気遣いが、重い障害のある子にも絵本を届ける大きな一歩なのだ、と私たちも学びました。
豊かな色彩と言葉の宝庫である絵本。本をこよなく愛し、どの子にも届けたいと願う大人と、子どもをこよなく愛し、何とかしてハンディキャップのある子に広い世界を見せてあげたいと願う大人がタッグを組めば、そこにはよい化学反応が生まれるのではないか。そう感じた体験でした。
「しあわせなら
てをたたこう」
デビット・A・カーター/作
きたむらまさお/訳
大日本絵画 1,400円+税
日本では坂本九が歌った誰もが知っている曲。その歌詞を基にした仕掛け絵本です。それぞれのページに付いたつまみを引っ張ると、動物が手をたたいたり、しっぽを振ったり、ウィンクしたり…。どこで読み聞かせをしても、子どもたちが自然と歌ったり、手拍子を打ったりしてくれる1冊です。
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