発達障害
「ありがとう、フォルカーせんせい」(パトリシア・ポラッコ作・絵、光咲弥須子訳、岩崎書店)という本を初めて読んだ時の衝撃と感動を今も思い出します。
主人公のトリシャは、成長して本が読めるようになることを楽しみにしているのに、いつまでたっても、字も数字もくねくねした形にしか見えません。クラスのみんなが笑うので、トリシャは学校が大嫌い。彼女が5年生になった時、新しくやってきたフォルカー先生は「君には、字や数字がみんなと違ってみえるのに、落第しないでここまできたんだ。君は必ず読めるようになる。約束するよ」と励まします。
ここまで読んで、彼女にはLD(学習障害)という発達障害があるのではと気づいた方もいるかもしれません。LDとは、読む・書く・計算するという能力が、全体的な知的発達に比べて極端に苦手な子どものことです。
彼女はこの後、国語の先生による放課後の特訓で独力で本が読めるようになります。そのくだりは感動的です。
「信じられない。魔法みたい!頭の中に光がぱあっと差し込んだ!言葉も文も、今までとは全然違ってみえた。何が書いてあるのか、意味も全部わかる!」
そう、この主人公トリシャこそ、小さいころの著者の姿そのものだったのです。
わたしが、この絵本を初めて読んだころは、発達障害の知識もあまりありませんでした。その後、発達障害の本をいろいろ読むうちに、「怠けてなんかない!ディスレクシア 読む・書く・記憶するのが困難なLDの子どもたち」(品川裕香著、岩崎書店)に出合いました。
品川さんは子どものころ、アルファベットを知らないままアメリカに住んでいたことがあります。そのときの文字が読めない、書けないという体験がこうした本を書く原動力になったそうです。
読めない、書けないという実体験のほかにも、この2冊には共通点があります。
それは、困難に直面した時、ぎゅっと抱きしめて理解してくれる教師がいたことです。肉親以外で、彼女たちのことを分かってくれる誰かがいるという幸せが、彼女たちに勇気を与えたのです。
わたしの所属する「本と子どもの発達を考える会」は以前、品川さんを招いた勉強会を開きました。終了後、外国人の子どもを支援する仕事に取り組む方たちが熱心に質問し、品川さんは実体験を交え、丁寧に答えていました。わたしたちが特別支援学級で読んできた絵本に対するアドバイスもとても的確でした。
品川さんはその後、発達障害をテーマにした絵本を次々と翻訳します。最新刊の「ボクはじっとできない」は、副題にもあるように「自分で解決法をみつけたADHDの男の子のはなし」です。
主人公のデイヴィッドは、ADHD(注意欠陥多動性障害)の男の子。次から次へと何か「すっごいアイデア」が浮かび、それを後先考えずに実践することで周囲に迷惑をかけてしまう。先生を怒らせてばかりで、とうとう両親が月曜日に学校に呼び出されることに。デイヴィッドが週末、一生懸命考えた解決法とは…。絵本の新たな力を感じさせてくれる1冊です。
「ボクはじっとできない」
バーバラ・エシャム/文
マイク&カール・ゴードン/絵
品川裕香/訳 岩崎書店 1,600円+税
自分が「じっとできない病」だと気付いたデイヴィッドは、さまざまな解決法を先生に提案。いまするべきことを書いた「注意・集中力こうじょうカード」、体が勝手に動きそうな時に握って心を鎮める「ストレス・ボール」などのアイデアが、ユーモアあふれるイラストとともに描かれます。巻末の専門医と品川さんによるコメントも障害の理解に役立ちます。
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