少し前のことになってしまいますが、
千葉市美術館で開催していた
『絵本はここから始まった。ウォルター・クレインの本の仕事』に行ってきました。
「本の仕事を中心にクレインの芸術を本格的に紹介する日本で初めての展覧会であり、ほぼすべての絵本と主要な挿絵本を網羅する約140点」が見ることができる展覧会ということで、絶対に行かなくては!!と開催を知った時から意気込んでいたのですが…
個人的な問題なのですが、千葉市美術館へのアクセスがあまりよろしくないために
(いつ行こう、いつ行こう…)と思っているうちに時はたち…会期終了間際にようやく行くことができました。
ウォルター・クレインは、19世紀後半にイギリスで活躍し、現代の絵本の基礎を築いた重要な画家の1人として有名です。
クレインとランドルフ・コールデコットは絵本の歴史に興味を持って紐解いていくと、必ず出会う人物で、
私にとっては、偉人というか英雄というか…とにかく『すごい人』。
文献や資料、書籍の中で色々と見てきたものが実際に見れるということだけでも大興奮ですし、
さらには当時の木口木版の技術の確かさと、クレインの絵本作家、または画家としての成熟を感じることができる展示で
改めてウォルター・クレインの功績に唸りっぱなしでした。
私には、絵本作家としての側面の方が印象が強いのですが
クレインは、ウィリアム・モリスとともにアーツ・アンド・クラフツ運動を推進したデザイナーとしても知られています。
モリスにジョン・ラスキン…ラファエル前派の流れで注目されることも多いクレイン。
私が「こりゃあラファエル前派の女性そのものだなぁ」と特に思ったのは、フラワーシリーズでした。
クレインの描くの擬人化されたお花たちのたくましいこと!!…たくましいのですが優美で想像力豊かに擬人化されていて、とても華やかなシリーズです。
今回の展示では壁紙やテキスタイル、室内装飾などのデザイナーとして、
教育者、画家、熱心な社会主義者として…など、
絵本作家だけではない彼の多彩さも深く印象に残りました。
この展示を見れば、クレインが木版、リトグラフ、写真…と
技法によって、また時代の変化にも応じて描き方を変えているということが
よくわかります。
ぎっちり書き込むのがクレインのスタイルだと思い込んでいたのですが、
それだけではなかったのだなぁと知ることができました。
また、このように卓越した才能、技術を持った画家が、
子どものための絵本の制作に取り組んだということが、
絵本の歴史を動かしたのでしょうか。
見開きを一つのデザインとして考える、
ページの中で文字と絵を別々のものとせず配置する、
更に文字で語られない部分もを、絵で物語るということが
なされているというのが素晴らしいなと、改めて思いました。
「行ってよかったぁぁぁぁ~!!行かなかったら絶対に後悔しただろうな」
「なぜ始まってすぐに来なかったんだろう??これは何回か通う展示だった…」というのが今の正直な気持ちです。
とてもとても素晴らしい展示で、想像していた以上のボリュームと充実した内容で、とにかくただただ感動でした。
最後に、残念ながら、今回は行くことができなかった方にも嬉しいお知らせをひとつ。
今回の展覧会の展示目録の代わりに出版された
『ウォルター・クレインの本の仕事
絵本はここから始まった』
(滋賀県立近代美術館 ・
また、『イギリス絵本留学滞在記』
(正置 友子/著 風間書房/刊)を併せて読むと
より理解が深まります。
今回の展示にも深くかかわっていらっしゃる著者は
ウォルター・クレインの絵本と出会い、
50代でイギリスに留学して絵本の研究に没頭して、
イギリスでも知られていなかったヴィクトリア時代の絵本に関する詳細な博士論文を書きました。
こちらは、クレインの絵本の魅力と共に、
学ぶという事の奥深さについても考えさせられる1冊です。