今回、ご紹介するのは『しずくの首飾り』(ジョーン・エイキン/作 岩波書店/刊)です。
こちらは、いまだに箱入り!の貴重な形態。
竜にまたがった女の子(シルエット)が首から下げた
しずくの首飾りを指でつまんでいる表紙がパッと目を引き
まずは、それだけで物語好きの心をくすぐります。
一見、長編ファンタジーのように思えるかもしれませんが、実は短編集。
8つのお話が入っています。
そのお話のほとんどが、日常の生活を送っている登場人物が何かしらのきっかけでファンタジーの世界へ飛び込むというストーリー。
そのファンタジーの世界への飛躍が実に見事で、あざやか。
気がついたら物語の人物と一緒に、自分もファンタジーの世界の中にすっぽりと入り込んでしまいます。
例えば、表題作の「しずくの首飾り」では主人公のローラは、普通に学校に通う女の子です。
他の人と違うのは名付け親である北風がくれた不思議な「しずくの首飾り」を持っていること。
そのしずくの首飾りをうらやましく思った同級生にちょっとして意地悪をされ、
なくなってしまった首飾りを取り戻すために
ローラは非日常のファンタジー空間へと旅に出ます。
出発も帰還も実に軽やかで、突拍子もないことが起こるのに、
不思議とファンタジー世界と日常が地続きな感じがします。
しずくの首飾りは、ほそいほそい銀のくさりに雨つぶがついているのです。
毎年、誕生日ごとに雨つぶが増え、
その度にローラには不思議な力が使えるようになります。
…この設定だけで長編ファンタジーが書けそうですが、
このお話では、このあたりもさらりと描いているので
余白が多い…というか自分で想像して遊ぶ余地がたっぷりあります。
実際、私はそうやってこのお話を楽しみました。
表題作以外で私が特に好きなのは
『足ふきの上にすわったネコ』と『空のかけらをいれてやいたアップルパイ』です。
両方ともアップルパイが出てきます。食べ物もおいしそう。
そして、読み終わった後になんとも幸せな気分になれます。
これからの季節にピッタリなのは『魔法のかけぶとん』
300日は雪が降っていて、
木という木はぜんぶクリスマス・ツリーだという国のお話です。
小さいニルスのためにおばあさんが作っている、暖かくて美しいかけぶとんが、
アリ・べグという魔法使いに盗まれて思いもかけないことが起こります。
人ではなく「かけぶとん」が主役の不思議なお話で
エキゾチックなピエンコフスキーの挿絵がベストマッチ。
現在、品切れ中の『海の王国』は
『しずくの首飾り』を読んだ後に読むとちょうどいい感じのお話が11入っています。こちらもピエンコフスキーの挿絵。
エイキンといえば、特筆すべきは作品のふり幅の大きさ。
『ウィロビー・チェースのおおかみ』(冨山房 )と
『かってなカラスおおてがら』(岩波書店)が同じ作者の本だとは・・・
両方とも大好きだったのに、大人になるまで全く気がつきませんでした。
(『ウィロビー・チェースのおおかみ』もまたご紹介したいです。
『かってなカラスおおてがら』のカラスのモーチマーのシリーズは
ブレイクの挿絵ともぴったりで本当に本当に面白い作品なのですが、
残念ながら現在は品切れ重版未定です・・・悲しい)
『しずくの首飾り』はファンタジー作品の入門書としても良いですし、
エイキンの作品の入り口としても良い1冊です。
ピエンコフスキーの挿絵も素敵なので、
ぜひハードカバーの大きさで読んでほしい本でもあります。