意外と好評だったので、今年もできる限り読書会のレポートをあげていきたいと思います。
昨年は、店長が担当していましたが、今年は担当をバトンタッチ。
今回は副店長の令子さんからのレポートをまとめたので、
これまでの読書会レポートとはまた少し雰囲気が違うかもしれませんが、そこも含めてお楽しみください。(A)
今年最初の読書会が2月に開催されました。
まだまだ油断を許さない状況…ということで、どうしても密になってしまう店内ではなく、近くの公民館で行っています。
今月の1冊は『モモ』(ミヒャエル・エンデ/作 大島かおり/訳 岩波書店/刊)
実は、ちいさいおうち書店の読書会で『モモ』を取り上げたのは、2度目。
とはいえ、前回取り上げたのは、1986年6月。
その時も出席していたのはわたしと店長のみですので、他の参加者の方には初めての『モモ』の読書会ということになります。
話題になっていたこともあり、みなさんがどのようにこの物語を読んだのか意見を交わせるのが楽しみでした。
〇初めて読んだ人・再読して印象が変わった人…
『モモ』の存在は知っていたけれど、
今回初めて読んだという方も数名いました。
「あまりに有名な本だったので、家にはあったがなんとなく読まないでいた。」
「発売されて、すぐ買ったが、本棚にずっとあり、子どもたちは誰も手に取らなかった。社会人になって帰ってきた息子が、「お、モモあるじゃん」と持って行った。」という人も。
「ドラマ『35歳の少女』で、いつも柴咲コウが抱えていたので、学校図書館でも、子どもたちが「読みたいと言ってきた。」という声もあり、
最近のブーム(?)の影響で、世間的にも再注目されていた様子がうかがえます。
その方々からは
「出版から半世紀近くたっているのに、この世界は、更に時間を節約するという方向に進んでいる気がする。」
「時間の概念の表現方法がすごいなと思った。」
というような感想があがりました。
一方で子どもの頃に出会った人たちは
「小学生の時読んだ。大学の時、本を閉じて大学に行く、帰ってきてまたこの本を読むという生活をしていた。」
「中学3年の美術の授業(想像の世界を歩く)で、カメを描きいれた記憶があり、モモよりカシオペアが、強く印象に残った。」
「部活などで忙しく時間に追われ、時間短縮が正しいことであった時代背景があり、『モモ』は衝撃的な印象を残した。」
「初めに読んだのは、10歳の頃、最も大切な1冊となり、進路にも大きな影響をあたえた」
などなど…『モモ』にかなり強いインパクトを感じ、影響を受けたようです。
今回、改めて大人の視点で再読してみても
「保育士になり、子どもの描写に心を奪われた。」
「社会人になって、ベッポの“道路を掃くとき、道路全部のことを考えてはいけない”という文章が心につきささった。」
「久しぶりに読み返し、子どもの頃は、モモに近い心持ちで読んでいたはずなのに、今や、自分もすっかり、灰色の男化していることに驚きました。」
などなど…作品から新たにメッセージを受け取っていたようでした。
初めて読んだときと印象が変わったという意見の中には
「35年前にものすごく感動して読んだ自分がいたが、今回読み直して、以前より淡々と読んだ。どうしてなのかな、と考えたが、物語を作りすぎている気がする。人智学にまでこって、いろいろ読んだのになぜかな…」というものもありました。
これも、思い入れがあった作品だったからこその感想なのかなと思います。
「社会批判の面が強く、子ども読むのは難しいのでは?と思うが、読む時期によって感じ方が違う作品になるのだと思う。」という意見がありましたが、まさにその通りですね。
〇時代背景との関係
また、この本が出版されて当初・または初めて読んだときと、現在の状況を照らし合わせて考えさせられた…という方も多く
「1973年に出版された作品であるのに、現代社会の負の部分への鋭い視線屋風刺は、そのまま今の世界に当てはまり、エンデの先見の明には驚かされます。」
「10年前ブログに書いた感想を読み直した。前より、もっと悪くなっているのではと、どきっとした。ネットなどのIT機器が、人々の暮らしに深く入り込んでいる。」
「この作品が書かれた時代には、全く存在していなかった社会的なつながりを提供するネット上の仕組みに、今では私たちの人間関係が大きく依存し、在り方そのものまで規定されていることに、考え込まざるをえませんでした」
など、現在の私たちを取り巻く環境…とりわけインターネットやSNSが生活に密着している現在の状況について、改めて考えを深めたという意見が聞かれました。
〇エンデからのメッセージ
「生きていくのに、大切なこと、実践するといきやすくなることが、『モモ』の中にもかかれているかも。」
「人の話に耳を傾けなくては、と思う。時間というものは、心の中にあるんだなと思った。」
「時間に限りがあるという事を知った今、モモの本は心に響いた。」
「丁寧に生きるとはどういうことか考えた。」
「誰もが、自分次第で人間らしい豊かな時間を生きることが出来るんだという事を みんなに…特に未来ある子どもたちに伝えたかったのではないかと思う。」
…などなど。
物語全体の感想として、「時間」「生き方」という言葉がひとつキーワードになっているのかなと感じました。
『モモ』を通してエンデからのメッセージを感じた方も多かったようです。
今、改めてこの物語が脚光を浴びている理由の一端がわかるような気がします。
最後に、私の個人的な思い出を少し書きます。
1977年にエンデが来日したのに合わせて、エンデを囲む会が開かれ、私は幸運にもそこに参加できました。
前の日、紀伊国屋書店で本を買い、会が始まる前に会場で読み終えました。…顔を上げると、エンデが入ってきたのですが、本に載せている著者の写真とは全く違ったことに驚きました。髭を蓄え、哲学者のような雰囲気の方でした。
その時のお話で印象に残っているのは…
〇『モモ』というタイトルについて
日本では、「ももちゃん」というかわいい呼び方があるが、自分の想像したのは、もっとゾクっとする音の響きをイメージしていた。
〇エンデのプロフィール
この時、はじめてエンデが俳優であることを知りました。円形劇場のイメージはここから来たのかと納得。
私自身、学生時代に演劇をやっていたので、エンデの口からブレヒトなどの懐かしい名前を聴くことができ、親近感を感じ喜びました。また、エンデがシュタイナー教育の学校を出ていると知り、当時ちょうど興味を持ち始めていたところだったので驚いたことを覚えています。
自分の中の子どもにむかって物語を書いているという言葉が忘れられません。
その後、何度も『モモ』を読み直していますが、その都度きらめくような言葉を見つけ、うなずきながら読んでいます。