『真夜中のパーティー』のこと

7月21日の朝日小学生新聞・朝小ライブラリー『名作これ読んだ?』で『真夜中のパーティー』(フィリパ・ピアス/作 猪熊葉子/訳 岩波書店)を紹介しました。

 

新聞のスペースでは書ききれなかったあれこれを書き留めておこうと思います。(こちらは大人向けに)

新聞をご覧になれる方はぜひ併せてご覧ください。

今回の朝日小学生新聞でご紹介した『真夜中のパーティー』は

『トムは真夜中の庭で』の作者であるフィリッパ・ピアスの短編集です。短編集でありながら、とても読み応えのある奥行きのあるお話ばかりで、大人になって改めて読み返してみて、ピアスさんのお話作りの巧みさに感動しました。

……余談ですが、私は大学生の頃に、英語の勉強のテキストとして、この本を使っていました。その時の先生がピアスさんの文章のうまさについて色々とレクチャーしてくれたおかげで、物語の構成だけではなく言葉選びの巧みさも兼ね備えた素晴らしい作品だと思っています。

※『トムは真夜中の庭で』については自著『つぎに読むの、どれにしよ?私の親愛なる海外児童文学』(かもがわ出版)の中でも、この作品への愛を語っていますので、良かったら読んでみて下さい。

どのお話においても、ありふれた日常生活の中に時折紛れ込む非日常のできごとを、的確にすくいあげてお話にしているところがすごい!

シニカルな面もあり、大人が読んでも…いや、大人が読むからこそニヤリとするようなところもあります。読めば読むほどに味わい深く、年を重ねるごとに魅力的に思えるタイプのお話で、正直に言えば、この面白さ、洒脱さを小学生が存分に味わうのは、ちょっとハードルが高いのかもしれません。でも!だからといって、子どもが楽しめないのかといったら、そんなことは全くないのが、ピアスさんのすごいところなんです。

 

決して派手なお話ではなく、つぎつぎに事件が起こるようなスピード感のある展開というわけでもないので、はじめは少々とっつきにくいと思う人もいるかもしれません。でも、お話に出てくるのは子どもたちですし、子どもの時だからこそ感じる何とも言えないもどかしい感情が、実にうまく描かれているので、知らず知らずのうちに共感できる部分もたくさんあるはず‥‥‥

 

私のおすすめの読み方は、目次の順番とは異なりますが「まよなかのパーティー」か「キイチゴつみ」から読みはじることです。このふたつは、この本の中でも特に子どもの興味や共感をよぶお話ではないかしら。短編の映画やショートアニメを観ている感覚に似た感覚で楽しむことができると思います。

 

世の中の常識からちょっとはみ出た近所の大人(親は良い顔をしないようなタイプの)との微妙な距離感、老人と子どもの間の不思議な連帯感、大人や親を出し抜く子どもの、友だち同士の微妙な駆け引きなど、絶対にできないと思っていたことができた瞬間の喜び‥‥‥シチュエーションは違っていたとしても、(あ、この感じ、知ってる!)と思う瞬間がきっとあります。

 

私自身、子どもの頃にこの本を読んだときに、はっきりと言語化はできない感情‥‥‥理不尽なことを言う大人に対する気持ちとか、信用されればされるほど、それを裏切りたくなる天邪鬼な気持ちとか、人には話したことのない心の奥底にある気持ちが文章になっていてそわそわした記憶があります。大人になってから読み返すと、その子どもの時のそわそわした感覚も含めて、お話のひとつひとつがより味わい深く感じることができ、愛おしく感じます。

 

楽しく本を読むのがいちばん!ではありますが、いつも慣れ親しんでいる本だけではなく、たまには少しだけ背伸びして、じっくり読んでみるのも、きっとすてきな体験になりますよ。