初めて、このお話を読んだときは、まずはメアリー・ポピンズの感じのとっつきにくいキャラクターに衝撃を受けたのを覚えています。メアリー・ポピンズは鼻持ちならないイヤな人…ではないのですが、自己評価が高くてちょっと偉そうで高圧的、時折見せる優しさに油断するとぴしゃりと一線を引かれてしまします。
最初は怖かったり不機嫌なキャラクターには、そのようになる理由や過去があり…でもお話が終わるころにはすごく素直になったり優しくなったりする…という展開になりそうなものですが、メアリー・ポピンズのキャラクターは東風にのって現れて、西風にのって去っていくまで徹頭徹尾変わりません。
特定の人物(ボーイフレンドのバートや彼女の不思議な親戚や知り合い)には態度が柔らかくなるものの、バンクス家の人々や子どもたちとは距離を縮めようとも思っていなさそう…
そして、メアリー・ポピンズのその姿勢は特に変わらないままに(バンク家の人々にとっては徐々に大切な存在になります)お話が終わってしまうのです…最初に読んだときは、まずそのことに大層驚いたのですが、そのそっけなさが妙に気に入ったのを覚えています。
そして、メアリー・ポピンズはバンクス家を去ってから、二度三度とバンクス家を訪れるのですが、彼女自身の態度はほとんど変わりません。
彼女のちょっと変わった親戚や知り合いは次々に出てきて、そのたびに不思議な出来事が起こりますが、彼女が自分の素性を語ったり、子ども達を甘えさせたり…ということは一切なし。
そのそっけなさがいっそ潔い!そのことがより一層、メアリー・ポピンズの特異な存在感を際立たせているように思います。
そんな厳格な態度のまま、階段の手すりに腰かけて上にすべり上ったり、からっぽのカバンから次々に物を取り出したり、ひとさじごとに味の違う魔法のシロップを飲ませてくれたり…要所要所にメアリー・ポピンズが只者ではないとわかるようなエピソードが散りばめられていて、そのどれもが「こんなことあったら楽しそう!」とワクワクする…まさにエブリデイマジック!
絵の中に入ったり、空中でお茶会をしたり、物語の中の子ども達と会ったり、自分で作った粘土の人形たちの世界に入り込んでしまったり…奇想天外な出来事が次々に起こりますが、何が起きてもメアリー・ポピンズは騒がず、動じず、ぶれることなくその場にいます。
メアリー・ポピンズがいることによって、非日常の出来事が日常生活の中で起こりますし、またその逆もしかり。彼女がいるからこそ、このお話の軸が現実世界に留まっているのです。
メアリー・ポピンズ自身が現実とファンタジーの世界の扉になっているように思えて、とても興味深いです。
…こんなに非凡で癖の強いキャラクターなのに、どうして映画ではあんな感じのキャラクター設定になったのでしょうか??
この原作のままのメアリー・ポピンズでも十分に面白いと思うんですけどね~と最後に小声でぼやいておきます(笑)
(映画化に関するあれこれについては、『ウォルト・ディズニーの約束』という映画を観るとよくわかります。こちらについての感想も以前ブログに書いていますので、お時間がある方はご覧になってください。
私が特に何度も読み返しているのは『公園のメアリー・ポピンズ』こちらはシリーズの4作目で1~3の間のエピソードをまとめた短編集です。
今、読み返してみてもなかなかに含蓄のある「どのガチョウも白鳥」…大人の方がドキッとするお話も入っています。
子どもの頃に読んでいた時には、そんな風に思ったことはなかったですけど、思春期の頃に読んだときにはちょっとした教訓めいたお話のように感じたかな…(説教臭いというのとはまた違います)。
雑にまとめると、色々あっても自分は自分で素晴らしいという事なのですが…
誰よりも自分を肯定しているメアリー・ポピンズの存在が際立つお話として、とても印象深いお話です。
「幸運の木曜日」はこれまでに「わるい火曜日」(風にのってきたメアリーポピンズ)と「わるい水曜日」(帰ってきたメアリーポピンズ)に続く、曜日くくり連作(…勝手に名付けました)で、「幸運」といいながらもちっとも幸運でない展開に「やはり…」となり、前の3冊を読んでいる読者にとっては、嬉しい目配せだなと勝手に思っています。
「物語の中の子どもたち」と「公園の中の公園」は子どもの頃に特に好きなお話でした。この2章は私にとっては対になっていて「物語の中の子どもたち」は物語の中の子ども達がこちらがわの世界に出てくるお話、「公園の中の公園」は物語(厳密にいうと粘土遊び)の世界の中にこちら側から入っていくお話です。
こちら側とあちら側…はたしてどちらが物語の子どもたち?と視点を変えることで世界が変わるという事がさらりと描かれています。そして、どちらの世界も当たり前に行き来しているらしいメアリー・ポピンズ…
マザー・グース(ナーサリー・ライム)の出てくるお話を読み返すという遊びが自分の中でブームだった時期があったのですが、さすがメアリー・ポピンズのシリーズはその宝庫。
特に『公園のメアリー・ポピンズ』にはマザーグースに関連した登場人物や描写が多いので、付箋を貼ったりノートに書いたりして「見つけたよ!ここにもあった!」と喜び勇んで母に報告していたものです。
マニアックな楽しみ方をしたい方は試してみてください(笑)