9月22日の朝日小学生新聞・朝小ライブラリー『名作これ読んだ?』で『おはなしばんざい』(アーノルド・ローベル/作 三木卓/訳 文化出版局を紹介しました。
新聞のスペースでは書ききれなかったあれこれを書き留めておこうと思いますので、新聞をご覧になれる方はぜひ併せてご覧ください。
幼年童話といえば、ローベルの本は絶対に外せない!というくらい、大好きな作品がたくさんあり、どれか1冊を選ぶのは私にとってはとても難しいんです。
本音を言えば、片っ端から読んでいって好きな作品を見つけてほしいなと思っているくらいなのですが、今回はそんなお話の中から『おはなしばんざい』を選びました。
※ちなみに自著『絵本のつぎに、なに読もう?幼年童話と過ごした日々』(かもがわ出版)では『どろんここぶた』を紹介しています。
この本は日本では『おはなしばんざい』というタイトルですが、英語では「MOUSE SOUP」(ねずみのスープ)といいます。その英語のタイトルのとおり、本の表紙にはスープ鉢に入ったねずみが描かれています。一瞬ぎょっとする人もいるかもしれませんが、お話を最後まで読めば納得。スープにさせられたねずみのお話ではなく、あわやスープにされそうになったところを知恵で回避したねずみのお話だということがわかり、読み終えた後にもう一度、表紙のイラストを眺めると、「こういうことか!」と、思わずニヤニヤしてしまいます。
かわいくて楽しいお話の中に、ほんのひとさじピリッとスパイスが効いている感じがたまらない!大人になってからは特に、時折こんな風にちらちらと垣間見える、一筋縄ではいかないシニカルなユーモアに気がつくようになり、よりローベルの作品が好きになりました。
小さなねずみが、大きくて横暴ないたちにつかまって、なべに入れられて、あわやスープにされてしまう…となるものの、危機一髪、知恵を働かせてイタチから逃げ出してぎゃふんと言わせる…という展開は、「ペンは剣よりも強し」という言葉を思い出します。昔話にもよくある展開ではありますが、こういうお話は読むとスカッとする痛快さがありますよね。ピンチを切り抜けるために、ねずみがいたちに話して聞かせるおはなしは、短いながらもくすっと笑えるものあり、しみじみ考えさせるものあり……ひとつひとつのおはなしとして読んでも楽しめます。また、どのページにもあるイラストがおはなしと絶妙に呼応しているのが素晴らしい。ぜひお話と共にイラストをじっくり味わってほしいと思います。特に『こおろぎ』は文章とイラストの相乗効果で、思わず笑ってしまいます。
イラストがたっぷり味わえるのも、ローベルのイラストのファンの私として、嬉しいところ。
スープの鍋にいれられたねずみが描かれた表紙を開くと、次のページにはタイトルとねずみが本をもって、自分の家から出かけるところが描かれています。
これは、おはなしの中のできごとよりも少し前のできごとなので、(本文はねずみが本を読んでいるところに、いたちがあらわれるところから始まります)文章にはないものの、このイラストがおはなしの導入になっているところがニクイ!さらにもう1ページめくると、今度はもういちどタイトルとこんなイラストが!
これは、ねずみがいたちにするおはなしのひとつに出てくる、ねずみのおばあさんです。
初めて読むときは、わからないけれど、2回目以降に読むと「あ!これはあのお話の!!」と気がつけるので、気に入った本は何度でも読み返す私のような読者にとっては嬉しい計らいです。
そして、その次はもくじのページが出てくるのですが、このもくじがまた愉快でいいんです。このもくじを見ているだけで、
“面白そう!早く読みたい!”とワクワクしてきてしまいますよね。
おはなしだけではなく、本としても持っていることが嬉しいと思える1冊です。
ローベルの幼年童話のシリーズは名作揃い&個性の強いものが多いので、ぜひいろいろ読んでみてほしいな~と思います。
お気に入りの作品が見つかりますように!