ダイドーの冒険シリーズ☆お気に入りの読みものをご紹介

今回ご紹介する『ダイドーの冒険シリーズ』は

それぞれ独立して読むこともできますが、シリーズで読むと楽しさが増す粋な仕掛けがされています。

 

オムニバス形式の映画やお芝居で、次々にスポットのあたる人物が変わっていく感じ…と言えばわかりやすいでしょうか?

『ウィロビー・チェ-スのオオカミ』では、主人公のボニーとシルビアを助けてくれるサイモンという少年が出てきます。事件が解決し大団円を迎え、それぞれが未来への希望を語り物語は終わりますが、サイモンはそこでロンドンの美術学校に行きたいと話します。

 

そして続く『パターシー城の悪者たち』では、物語はサイモンがロンドンの美術学校に行くところから始まります。今度はサイモンが主人公となり、お話は進みます。運命の歯車が大きく動き、サイモンは更なる大きな陰謀に巻き込まれていきますが…前作から引き続き出てくる人物もいますし、さらりと描写されていたことが重要な伏線になっていたりして油断できません。

 

そして、次作の『ナンタケットの野鳥』では、サイモンが事件に巻き込まれるきっかけにもなった下宿の娘のダイドーが主役に。厄介な悪ガキという印象の強かったダイドーが主人公になるとは私は正直ちらりとも思っていなかったので、初めて読んだときはとっても驚きました。意外すぎる主人公リレーでしたが、ここからダイドーが大活躍!

(※私が子どもの頃に読んだシリーズと現在、冨山房から刊行されているシリーズは順番などが若干違い、以前のシリーズではこの後、『かっこうの木』『ぬすまれた湖』としばらくダイドーのお話が続きます。)

 

Ⓒかっこうの木(旧版)
Ⓒかっこうの木(旧版)

数珠つなぎのように登場人物や出来事がつながって広がって…シリーズが進むにつれ、この物語の世界が一回りづつ大きくなり、地図が広がっていくような感覚を味わえます。

作者のエイキンは40年余りかけてこのシリーズを執筆していたそうなので、これから先、どんな世界が広がっていくのか…シリーズ全巻揃うのが楽しみです。

このシリーズは仮想の時代設定のイギリスで繰り広げられる陰謀渦巻く物語で、かなり怖い(悪い)人物もでてくるストーリーで、エンタメ要素満載。ハラハラ・ゾクゾクの成分が多いので、こわおもしろいのが好きな子は読むとはまるんじゃないかな~と思います。

 

でも、怖がりなうえに、想像力のたくましかった私はこの手のお話はちょっと苦手で(ナルニア国シリーズの『さいごの戦い』は恐ろしすぎて一度読んだきり大人になるまで読み返すことができなかったほどです)本来ならばあまり何度も読み返すタイプのお話ではありません。

それなのに私がこの物語を熟読したのは、食べ物や洋服などの描写が丁寧に書き込まれていることがきっかけでした。

 

Ⓒウイロービー・チェースのおおかみ(旧版)
Ⓒウイロービー・チェースのおおかみ(旧版)

1巻目の『ウィロビー・チェースのオオカミ』の主人公のボニーとシルビアはいとこ同士ですが経済状況が全く違います。

裕福ないとこの家に預けられることになったシルビアは、おばさんに質素ではあるものの精一杯の準備をしてもらいボニーのお屋敷まで旅をします。

 

 

 

道中、同じ車両に居合わせたおじさんにため息の出るほど豪華なお菓子屋さんの箱をすすめられても、おばさんの言いつけを守り、我慢して後からそっとおばさんの持たせてくれたささやかなサンドイッチを食べるシルビアの健気さ…

その構図を引き立たせるのは…おじさんのすすめたお菓子の箱の中身「ジャムタルトやメイズ・オブ・マナーやレモンチーズケーキやチェルシー菓子パン」と、シルビアのサンドイッチ「ピンクのちり紙みたいにうすっぺらなふわふわしたハムの薄切りが入った小さなロールパン」です。(※引用は旧版から)

 

何度読んでもお菓子の箱の中身にワクワクした後に、シルビアのサンドイッチを想像して切なくなりますし、この場面だけでシルビアがどんな子なのか一気にわかります。

また、ボニーのお屋敷で自分のためにサイズ違いで用意された白い毛皮の帽子と外とうを見て、胸を高鳴らせながらも、自分のグリーンのビロードのコートのことを思い出して胸が痛むシルビア…白い毛皮のコートに比べたら明らかに見劣りのするコートですが、それはおばさんがグリーンのビロードのショールを断ち切ってつくってくれたもの。

さりげない描写に新しい環境への戸惑い・喜び・後ろめたさ…色々なものが盛り込まれていて、グッときます。

私は子どもの頃、祖母が半分くらい洋服を手作りしてくれていました。祖母の作ってくれた洋服も大好きだったのですが、みんなが持っている既製品にこっそり憧れていました。ごくごくたまに既製品の洋服を買ってもらえる時の抑えきれない嬉しさと祖母に対する何とも言えない後ろめたさと…そんな複雑な気持ちを、このシルビアの心情に重ねて読んでしまい、一気にシルビアに親近感を抱き…ここから完全にこのお話の中に入っていけたのです、冒険物語においても、こういうディテールや心理描写を丁寧に描いてくれるところが、このシリーズの素敵なところだなと私は思っています。

何が言いたいのかというと…ハラハラドキドキ楽しめるエンターテイメントとして読んでも良し。描写や心情を丁寧にさらってじっくり楽しむのも良し。どちらの魅力も兼ね備えていますよっていう事なんです!!

 

エイキンの作品は他にもハチャメチャに面白いカラスのモーチマーのシリーズ(残念ながら絶版)や『しずくの首飾り』『アーミテージ一家のお話』(岩波書店)などがあり、そちらもおすすめ。もっと作品が読まれてほしい作家の1人です。